防犯カメラに助けられた話

数年前に防犯カメラに助けられました。

休日に家族で海のそばの大型商業施設に遊びに行ったときのことです。

駐車場が満車で空き待ちの行列が出来ていたので、妻と3才の息子には先に昼ごはんにいってもらいました。

クルマを停めるのに1時間近くかかり、ひとりで駐車場を歩いているときに、スマホが鳴りました。

妻からの着信です。

普段はラインでやり取りすることが多いので、少し不安を覚えました。

いつもはゆっくりとはなす妻が早口で言った言葉に血の気が引きました。

息子がいない。

4階のレストランで昼ごはんを食べ終え、ふたりでトイレに行き、妻が手を洗っているすきに、息子が通路へとび出していって、そのままいなくなってしまったというのです。

商業施設に入ると物凄い人出です。

エスカレーターをのぼりつつ、あたりを見回しますが、息子の姿は見当たりません。

ワンフロアが広く、階数も8階まであります。万が一屋外に出てしまったら、道路はかなりの交通量です。

さらにその向こうには海もあります。

悪いことばかりが頭をよぎります。

4階のトイレの前でいまにも泣きそうな顔をした妻に合流して、状況を改めて訊いてみても、息子がどこにいるのかまったく見当もつきません。

トイレから出ると左右に通路があり、すぐそばには大きなアパレルショップがあって、さらに正面にエスカレーター、近くには階段もあるのです。

その場から動いていいのか、それともとどまって少し待ってみたほうがいいのか、、、

とりあえず妻にはその場にいてもらい、アパレルショップのなかを探してみることにしました。

以前、買い物に来たときに、マネキンや陳列棚、カガミなどのかげに息子が隠れて遊んでいたことを覚えていました。

まだ3才です。ひょっとすると隠れて遊んでいて、自分が迷子になっていることもわからずにいるのではないかと思いました。

探し始めてしばらくすると人の多さもさることながら、とにかく死角になる場所がたくさんあるので、とてもひとりでは探しきれないと感じました。

3才の息子が同じ場所にとどまってくれているとも思えません。時間が経てば、遠くに行ってしまうかもしれません。

妻が待っているトイレそばに戻ってくると、ふと視界に天井に設置された防犯カメラが入りました。

これだ!

妻に防犯カメラの映像を遡れば、少なくとも息子がどっちのほうに向かったのか分かるはずだと伝え、すぐにサービスカウンターに行き、事情を話しました。

しばらくすると警備室から制服姿の警備員がふたりやってきて、ひとりは息子の捜索、もうひとりは防犯カメラの映像を遡ってくれることになりました。

スマホの番号を伝え、なにかわかったらすぐに教えてほしいと頼みました。

少なくとも息子の向かった方向はわかるはずだ。

少し前のことでも何も分からないよりは大きく前に進むはずだ。

きっとうまくいくと自分に言い聞かせました。

5分もすると警備室から連絡があり、息子が向かった方向がわかりました。

妻と二手に分かれて、店舗と通路をしらみ見潰しに探していきました。

しばらくするとスマホが鳴り、警備員に息子らしき子どもが見つかったと伝えられました。

息子の服装と一致します。

待ち合わせ場所は、施設内のゲームセンター前でした。

妻に伝えると、レストランに向かう途中で、息子がゲームセンターに設置されている電車の乗り物が気になって、しばらく離れなかったといわれました。

レストランからゲームセンターまでかなりの距離があったので、3才の息子が道順を覚えていたとしたら驚きです。

しばらくすると遠くに警備員と話す息子の姿が見えてきました。

制服を来たカッコいい警備員と話せて、息子は笑っているようでした。

妻が走り始めて、息子に近づいていきます。

時計を見るとたった20分の出来事でした。

息子を失わずにすんだ。

大げさではなく、本当にそう思いました。

息子と話す妻は泣いていました。

妻が泣くのは親しい人たちのお葬式のときぐらいです。

警備員に何度もお礼を言いました。

よかったですね、とひとことだけいうと警備員はすぐに立ち去りました。

スマホでもうひとりの警備員に連絡すると、息子と再会するところも、防犯カメラで確認済みだと伝えられました。

お礼を伝え、スマホを切ると、息子が寄ってきて、ボクではなく、パパとママが迷子になっていたと、笑顔で言いました。

  

わたしは防犯カメラを見るたびにこの日のことを思い出します。

淡々と仕事をこなす警備員と防犯カメラにわたしたち家族は救われたのです。

とても感謝しています。

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ご愛読ありがとうございました。

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